Ⅰ-d 人間のイメージ
Ⅰ-d-25 「卩」(㔾)
Ⅰ-d-25-ⅴ-ア 【厄】 *・ĕk➔・ɛk(呉音ヤク、漢音アク)
[字源]崖の下に落ちて進退に窮する情景 [コアイメージ]押さえつけられて動きが取れない [意味]進行を妨げられて行き詰まる
*図は篆文。
[解説]
まず古典における用例を見る。
①原文:孔子南適楚、厄於陳蔡之間。
訓読:孔子南のかた楚に適ゆき、陳蔡の間に厄せらる。
翻訳:孔子が南方の楚に言った時、陳と蔡の間で通行を遮られ、にっちもさっちも行かなくなった。・・・『荀子』宥坐
②原文:賙萬民之艱厄、以王命施惠。
訓読:万民の艱厄を賙シュウし、王命を以て恵みを施す。
翻訳:万民のわざわいを救うべく王命で恩恵を施す。・・・『周礼』地官・司徒
①は進行を妨げられて行き詰まる意味、②は順調な進行を妨げるもの、わざわい、災難の意味で使われている。
①の意味をもつ古典漢語を*・ĕkといい、この聴覚記号を視覚記号に換えて「厄」とする。
厄は「厂+㔾」というきわめて単純な図形で、危の下部と同じである。危では「厂(がけ)」の上と下に人がいる形であるが、厄では「厂(がけ)」の下に人がいる形と見てよい。
厂はᒥ形の崖の形で、岸や厓(がけ)に含まれている。㔾は卩と同じで、人が背を曲げてしゃがんでいる形。したがって厄は人が崖から落ちてうずくまっている情景、あるいは、人が崖にぶつかって行き詰まる情景と解釈できる。この図形的意匠によって上の①の意味をもつ*・ĕkを表記した。
この語には、障害にぶつかって動けない状態であるから、「押さえつけられて動きが取れない」というコアイメージがある。
〈同源語のグループ〉
d-25-ⅴ-ア 「厄」 本項。
d-25-ⅴ-イ 「扼(ヤク)」 「厄(音・イメージ記号)+手(限定符号)」。厄は「押さえつけられて動きが取れない」のイメージ。手で押さえつけて動けないようにする情景。ぐっと押さえつける意味。扼腕。
d-25-ⅴ-ウ 「軛(ヤク)」 「厄(音・イメージ記号)+車(限定符号)」。厄は「押さえつけられて動きが取れない」のイメージ。馬の首を押さえつけて勝手に動けないようにする馬具、「くびき」の意味。
d-25-ⅴ-エ 「阨(アイ・ヤク)」 「厄(音・イメージ記号)+阜(限定符号)」。厄は「行き詰まって動きが取れない」のイメージ。道が行き詰まって進めない所(狭くて通れない所)。阨路(=隘路)。
Ⅰ-d-25 「卩」(㔾)
Ⅰ-d-25-ⅴ-ア 【厄】 *・ĕk➔・ɛk(呉音ヤク、漢音アク)
[字源]崖の下に落ちて進退に窮する情景 [コアイメージ]押さえつけられて動きが取れない [意味]進行を妨げられて行き詰まる
*図は篆文。
[解説]
まず古典における用例を見る。
①原文:孔子南適楚、厄於陳蔡之間。
訓読:孔子南のかた楚に適ゆき、陳蔡の間に厄せらる。
翻訳:孔子が南方の楚に言った時、陳と蔡の間で通行を遮られ、にっちもさっちも行かなくなった。・・・『荀子』宥坐
②原文:賙萬民之艱厄、以王命施惠。
訓読:万民の艱厄を賙シュウし、王命を以て恵みを施
翻訳:万民のわざわいを救うべく王命で恩恵を施す。・・・『周礼』地官・司徒
①は進行を妨げられて行き詰まる意味、②は順調な進行を妨げるもの、わざわい、災難の意味で使われている。
①の意味をもつ古典漢語を*・ĕkといい、この聴覚記号を視覚記号に換えて「厄」とする。
厄は「厂+㔾」というきわめて単純な図形で、危の下部と同じである。危では「厂(がけ)」の上と下に人がいる形であるが、厄では「厂(がけ)」の下に人がいる形と見てよい。
厂はᒥ形の崖の形で、岸や厓(がけ)に含まれている。㔾は卩と同じで、人が背を曲げてしゃがんでいる形。したがって厄は人が崖から落ちてうずくまっている情景、あるいは、人が崖にぶつかって行き詰まる情景と解釈できる。この図形的意匠によって上の①の意味をもつ*・ĕkを表記した。
この語には、障害にぶつかって動けない状態であるから、「押さえつけられて動きが取れない」というコアイメージがある。
〈同源語のグループ〉
d-25-ⅴ-ア 「厄」 本項。
d-25-ⅴ-イ 「扼(ヤク)」 「厄(音・イメージ記号)+手(限定符号)」。厄は「押さえつけられて動きが取れない」のイメージ。手で押さえつけて動けないようにする情景。ぐっと押さえつける意味。扼腕。
d-25-ⅴ-ウ 「軛(ヤク)」 「厄(音・イメージ記号)+車(限定符号)」。厄は「押さえつけられて動きが取れない」のイメージ。馬の首を押さえつけて勝手に動けないようにする馬具、「くびき」の意味。
d-25-ⅴ-エ 「阨(アイ・ヤク)」 「厄(音・イメージ記号)+阜(限定符号)」。厄は「行き詰まって動きが取れない」のイメージ。道が行き詰まって進めない所(狭くて通れない所)。阨路(=隘路)。