Ⅰ-a 女のイメージ毒

Ⅰ-b-2 「母」
Ⅰ-b-2-ⅳ 【毒】 dok(呉音ドク、漢音トク)
[字源]生命を無くする情景 [コアイメージ]無い [意味]生命や健康を害するもの
*図は篆文。

[解説]
「毒」の語史は非常に古く、最古の古典に出てくる。

①原文:噬臘肉、遇毒。
 訓読:臘肉を噬み、毒に遇ふ。
 翻訳:祭りの肉をかんで毒に当たる・・・『易経』噬嗑
②原文:心之憂矣 其毒大苦
 訓読:心の憂ひ 其の毒大いに苦し
 翻訳:憂いに沈む胸のうち 苦しいこと限りない・・・『詩経』小雅・小明

①は生命や健康を害するもの(poison)の意味、②は比喩的に、ひどい苦痛の意味に使われている。
「毒」は「生+毋」と分析する。生は「生命が生まれる」また「生命」の意味。毋は「母」から分化した字。「母」の中の二点を一本の線に変えた図形である。母は生命を生み出す存在である。子は母の胎内(暗い世界)から外界(明るい世界)に出てくる。生命を生む行為には「無から有が出てくる」というイメージがある。有(生命)の前提をなすのは無である。だから「母」は「生み殖やす」というイメージのほかに、「無い」「暗い」というイメージがある(「母」の項参照)。この「無い」のイメージだけに限定したのが「毋」の記号である(実際の使い方は「ない」という否定詞)。したがって「生+毋」を組み合わせて、生命を無くするという状況を暗示させる。この図形的意匠によって、上の①の意味をもつdokという語を表記する。